NEW LUMIX S1H 開発者トークセッション

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シネマクオリティの映像表現を可能にするプロフェッショナルモデル目指して開発された、フルサイズイメージセンサー搭載ミラーレス一眼カメラLUMIX S1H。開発の苦労・秘話をトークセッション形式でお届けします。

イメージ図:開発者トークセッション風景

1. 「フルサイズ動画モデル」としてこだわったポイントは?

中西:LUMIX S1Hは動画性能を極限まで尖らせたモデルとして開発しました。GHやシネマカメラを既に展開している中、今回S1Hを開発した意味について、商品企画担当に聞いていきたいと思います。

イメージ図:シネマカメラのラインアップと主な仕様

香山:LUMIX S1Hは、GH5/GH5Sで追究した動画性能を展開しながら、さらに進化させたモデルです。やはり、動画はパナソニックの強みなので、高い意識を持って開発しました。業務用カメラで培った知見・ノウハウ・現場感覚がGHやS1Hの開発に非常に生かされていると思っています。業務用カメラの強みを生かしつつ、ミラーレスの形を持つことにより、新しい映像表現にチャレンジできる機器を提供できるのではないかと思い続けて開発してきました。弊社の映像制作カメラのラインナップとしては業務用カメラEVA1とGH5/GH5Sの間に空洞があったと認識しています。つまり、一眼カメラの形状で、Super35mm以上の大きなセンサーで動画を撮影したいという需要に対応できていませんでした。GH5/GH5Sをやってきて、映像制作をされている方々から非常に好評のお声をいただきましたが、一つ、どうしても越えられない壁が、センサーサイズだったんです。でも、2019年3月にS1RとS1を発売して以降、ようやくフルサイズミラーレスをラインナップすることができたので、このラージフォーマットを最大限活用して映像のグレードを上げていくことを目標に掲げました。

中西:S1Hで目指した“コンセプト”は何でしょうか?

香山:開発にあたっては、大きく二つのコンセプトがあります。一つは「シネマミラーレス」。ハイエンドを目指す意味で、目標値を“シネマ”に設定しました。もう一つは、「AカメラクオリティとBカメラの機動力の両立」です。もちろん、このカメラをメインにしていただけるのは非常にありがたいのですが、やはり商業映画の制作ではシネマカメラが使われる現場が多いと思います。ミラーレスの機動力を持つことによって、例えばジンバルやドローンなどでの運用も含め、Bカメラ、Cカメラ、Dカメラの役割を担えるのではないかなと考えています。

中西:高い目標を掲げた分、開発にあたって様々な苦労がありましたよね。

トークシーン:香山

香山:苦労が多かったのはイメージクオリティですね。目指すのは“シネマ”だとして、では、実際そこにどんな要望が存在しているのか?ということからのスタートでした。ところが、そこがなかなかわからないんですよ、LUMIX部隊だけでは…(苦笑)。ハイグレードな映像クリエイターの方々に貢献していくには何をすべきか?そこを正しく理解するところから始めないといけない。そこで、開発に協力してもらったのがVARICAM、EVA1のプロダクトリーダーでありながらマーケティングにまで携わっていた三井君です。

三井:これまでVARICAMを3機種作って、EVA1なども開発してきて、GHシリーズとの親和性が良いとお客さんからよく言われていた中で、EVA1とGH5の間の空洞部分を埋めたいという思いが強くありました。個人的には、下から上まで一貫したラインナップを作りたかったのと、LOOKや思想も揃えて、小さなバジェットから大きなバジェットまで繋がる階段をつくっていきたいなと思っていました。今回、それがS1Hで実現できたと思っているので、開発に参加できて、とてもハッピーです。

中西:三井さんから見て、S1Hのポイントはどこでしょうか?

三井:まずはダイナミックレンジと感度ですね。技術者的なことを言うと、フルサイズだからダイナミックレンジが良いとか感度が良いというのは、ちょっと語弊があります。大事なのは画素の大きさなんです。例えばS1Rは47メガ、動画でいうと8Kの画素数があって、画素サイズはどうしても小さくなるんですよね。フレームの大きさが決まっている中に、画素を突っ込めば突っ込むほど、1画素あたりの面積は小さくならざるを得ないんです。例えばEVA1では解像度を重視しましたので、Super35mmの中に5.7Kの画素数を突っ込みました。5.7Kから4Kを作るので大変スムーズな4K解像度を実現できたのですが、画素サイズがVARICAMより小さくなりますので14ストップとなっています。今回のS1Hはフルサイズの6Kで、画素サイズがVARICAMと同じぐらい大きかったので、14+ストップを実現できました。

香山:まずは、“シネマ”に叶う画質を実現できる筐体(きょうたい)でないと、商品コンセプトだけ“シネマ”とか言っても、何言うとんねん?という話ですよね(笑)。何よりも映像クオリティをとことん追求するところが、このカメラの開発における最優先事項だと考えました。

三井:もう一点あるとしたら、開発からマーケティングまで一貫した“姿勢”ですね。ダイナミックレンジは画面を見ながら測定するんです。実用的なS/Nを踏まえて14+ストップで設計しているんですけど、実際にはうっすらとは見えるんですよね、16ストップぐらいまで(笑)。ただ、見えるからといって、ノイズなどの問題を無視したスペックで開発、訴求するのはおかしいと…。シネマミラーレスとしてきちんとした設計をし、自信を持って使えるものをつくり、実用可能なダイナミックレンジを謳おうというのが私たちのこだわりなんです。

香山:ハイエンドユーザーの期待値を裏切らないことにはとことんこだわっていますね。スペックを見て気に入って、現場で使ってみて「あれ?なんだよこれ」とガッカリされないように意識してつくっています。あと、画質面以外でこだわったのは、フルサイズだからと言って機動力を妥協するのではなく、GHの機動力を取り入れて、さらに高めました。また後々触れたいと思います。

2. VARICAM LOOKを追求した理由は?

中西:S1HはVARICAM LOOKに徹底してこだわりましたね。その理由を深掘りして聞いていきましょう。

イメージ図:14stop

香山:やはり、一貫した画づくりは重要です。実はこのテーマはGH4/GH5から論議しています。と言うのも、V-Logのカーブを見ると、GH5/GH5Sはプラス方向が+4ストップ、マイナス方向は-8ストップ。18%をセンターにみたとき、アンバランスなガンマなんですね。重要な考え方として、我々は基本をV-LogとそのLUT(Look up table)に置いたわけです。オリジナルのLUT及びLogという選択肢もありました。でも、やはり仕事において、一貫した画づくりは重要なんですよ。そういう意味で、既にプロの現場で使われ、ユーザーの皆様のLUTも多く存在しているVARICAMと同じガンマを選びました。S1Hはその流れを汲んだうえで、色再現性のさらなる向上に取り組みました。つまり、V-Gamutの採用です。

三井:これはなかなかハードでしたね。VARICAM LOOKのコンセプトは、RGBの正確な色再現の実現です。それをハイからローまで色がブレないように注意してつくり上げていきます。VARICAMやEVA1は、イメージセンサーのカラーフィルターからそういう特性を目指して設計しています。今回、同じ思想を踏襲して、限界まで近づけています。

中西:せっかくなので、当初、シネマカメラ開発時にVARICAM LOOKを作り上げたときのことを聞かせてください。

三井:技術的にこうあるべきというのはあったんですけど、アートの要素が入ってくると、やはり我々技術者だけでは難しい。そこはアーティストに任せようということで、ハリウッドのポストプロダクションのカラリストの方に色々とご意見を聞きながらつくりました。僕自身が大好きな作品をつくっているカラリストに、自分のカメラの画をつくってもらいたいなということが始まりで、そこから生まれたのがVARICAM LOOKです。また、パナソニックの思想として重要なのがノイズの扱いです。我々のカメラは比較的ノイズが多いです。

トークシーン:三井

これは、あえて消していないという思想の表れです。もちろん良し悪しはありますが、基本的にノイズリダクションをカメラの中に入れてしまうと、ノイズが潰れておかしくなるんです。ノイズリダクションってどういう仕組みかというと、信号処理の中でノイズを特定し、それを消すために、周囲の画素の情報をちょっとずつ持ってきて足したり引いたりする。これがデジタルフィルターといわれるものです。ここでのポイントは、出来るだけ多くの周りの画素の情報を持ってくること。理想的にはちゃんと時間をかけて計算して、複雑なアルゴリズムで足し引きすることなんです。ただし、カメラの中のメモリーは限られますし、リアルタイムで映像を出さないといけないので、どうしても処理が簡単になってしまうジレンマがあります。しかし、簡単な演算で処理してしまうとノイズがブロックっぽくなったり、画像が荒れて汚い感じのデジタルっぽくなっていくんですよね。こうなってしまうともうおしまいで、ポストプロダクションでの高性能なノイズリダクションでも消せなくなってしまう。ノイズは出来る限り抑えるのですが、不自然でおかしな処理はしないというのが我々の思想で、それをずっと踏襲しています。

堀江:S1HのV-Logモードにもノイズリダクションを入れていないので、自然なノイズを楽しんでいただければと思います。ただ、ノイズを消さないといけない時もあると思うので、その時はメニューの「オプション・NR」から活用してください。基本的には先ほど申し上げた思想で設計していますが、今回、S1HについてはNR無しでもノイズはほとんど気にならないクオリティを実現できていると思います。

香山:LUMIXは写真撮影においても、強くNRをかけて画づくりしていくというよりも、いかに自然なノイズと上手くつきあっていくかに主軸を移してきた時期がありました。その思想の延長線にあったので、今、三井君が言っていたように、ビデオでLogをやる時でも、本当のVARICAM LOOKを追求する時のノイズとの付き合い方に関しては、解釈しやすかったです。

トークシーン:堀江

三井:一回消すと、情報が戻ってこないんですよね。パッと見た時にキレイに見えるのですが、グッと持ち上げると何もないとか。それは良くないと我々は思っているんです。

香山:かなりこだわりましたね。

堀江:かなり時間をかけてすり合わせていったと思います。

3. 記録モードへのこだわりは?

中西:今回、S1Hに搭載した膨大な記録モードについてのこだわりを聞いていきたいと思います。

イメージ図:記録モード

香山:特長を簡単に言えば、6Kが撮れるカメラが出てきたよ!ということです。6Kをフルサイズのセンサーエリアで提供し、センサーが持っているフルの情報をお客様へ届けたかったのです。よく「4Kの次は8Kじゃないんですか?」と聞かれますが、それはあくまで放送やテレビなどのAV機器における話だと思ってます。6K対応で意識したことは、4Kの時代における映像制作の自由度を極限まで高めることです。クロップ、ズーム、パン、またそこから4Kやフルハイビジョンにダウンコンバートして、とことん自由度を提供したかったということが肝です。

中西:他にも注目すべきポイントはありますか?

香山:4:2:2 10bitを同じくフルサイズのエリアで提供していることですね。30PのDCI-4Kを内部記録できます。次に、Super35mmにはなりますが、DCI-4K 60Pの10bit内部記録ですね。もう一つはアナモフィックですね。Super35mmの4:3アスペクトでアナモフィック撮影が可能です。しかも10bitで。さらに、いろいろなひずみ率を持つレンズがありますので、一般的な×2.0以外にも様々なひずみ率に対してデスクイーズ表示ができるようにしたことは、結構、変態的なこだわりポイントですね(笑)

中西:記録モードって全部でいくつありましたっけ?

香山:数は即答できませんね(笑)。とにかく膨大です。最初に「ここまでやりたいです」と堀江君にオーダーした時の一言、今でも忘れられません。「正気ですか?」と驚かれちゃいました。

堀江:最初は、この倍ぐらいのオーダーでしたよね?(笑)

香山:そんなことはないですよ(笑)。GH5からは統廃合も進めていますから。従来は映像制作用に、MOV/LPCMとMP4/LPCMの2コーデックを提供していました。ですが、今回からはMOV/LPCMに集約しました。MP4は、AACのみに絞って、いわゆるAV機器互換用に振り切っています。GH5を実際に使っていただいたお客様の多くがMOV利用と分かりまして...。とか言いながらもトータルのフォーマット本数はかなり増えていると思いますが...(笑)。

堀江:モードが多いのが偉いわけではないですが、いろいろな選択肢を提供できるということを重視してしっかりつくっています。

中西:これだけの記録モードを搭載するにあたり、配慮したことはなんでしょうか。

香山:ズバリ、検索機能とマイリスト登録です。仕事のプロジェクトに応じて最適な画角やフレームレートを、検索で簡単に絞り込み表示できますし、何日間か使うプロジェクトの記録フォーマットをあらかじめマイリストに登録しておくだけで、仕事の効率が格段によくなります。現場で迷わないことにも直結するので。ここは気合を入れてつくりましたよね。

堀江:そうですね。かなり苦労したところですね。

香山:こうやって完成形を見るとスッキリしましたが、このアイデアにたどり着くまでが結構大変でした。実際にちゃんと使われるシチュエーションを意識してつくった気概が伝わると嬉しいですね。

イメージ図:記録モードUI

4. “記録時間無制限”を追求した理由は?

中西:今回、S1Hでは全てのモードが記録時間無制限で撮れることに徹底的にこだわっています。そのためにファンを搭載しましたが、そうしてまでやり切りたかった、という意志の表れですよね。

香山:記録時間の無制限には、ものすごくこだわりを持っています。技術的視点では、記録時間無制限の最大のハードルは“熱”です。専用の放熱設計をされた動画専用機からすると当たり前の話ですが、ミラーレスでは珍しい仕様として、GHシリーズからこだわってきたポイントです。無制限とは言っても、決して長回しだけに価値があるわけでは無いと思っています。つまり、いつでもお客様が動画記録ボタンを押した時に必ず動いてくれる性能を出し切るための一つの指標、これが記録時間無制限だと思っています。技術チームにも理解してもらいながら開発を進めてきましたが、実際は「どうやってやるねん?」という産みの苦しみが大きかったんじゃないかと思います。

堀江:そうですね。GHシリーズも従来から記録時間無制限を訴求していますが、当初はS1Hでもその延長でやりましょうというスタンスでした。つまり、元々ファンレスで検討していたのです。ただし、純粋な理論値で言うと、同じフルサイズのLUMIX S1と比較して1.5倍ぐらいの体積が必要なことがわかり…。縦位置グリップ一体型となった形か、中判カメラのような形か、いろいろ考えて、マウントのところだけポコッと出っ張ってるようなモックをつくってみました。

香山:ビックリしましたよ。打ち合わせの時、設計のカバンからすごい形のモックアップが次々出てきて「これがファンを使わない結果です」と言うんですよ。おいおい、これはあかんやろと(笑)。この時にファンを入れようという思いに振り切れました。でも、ファンを入れることには、企画としても不安な要素がいくつかあったんです。音はどうなるんだろう?とか、B.I.S.(ボディ内手ブレ補正)への影響とか。あと、穴があるけど防塵防滴性能は両立可能なのか?とか…。

堀江:今、香山さんが言ったような課題があったから、設計としてはファンを入れたくなかったんです(笑)。そういう配慮をしないといけないので、開発のハードルがグンと上がる。勘弁してほしいというのが本音でしたが、やはり無制限をやり切るために必要なので、とにかく頑張るしかないなと…(笑)。

イメージ図:放熱ファン

中西:いくつか課題が出てきましたが、まずは音の課題について聞いていきましょうか。

堀江:GHシリーズと同じようにB.I.S.やレンズの動作音をノイズキャンセルするために、雑音参照マイクをカメラ内部に1チャンネル設けています。それをファンの特性にも効くように配慮したわけです。また、ファンの回転音自体もなるべく抑えるために、大きいファンをゆっくり回す。完全無音まではいかないけれど、ファンレスの従来機と比べても特に劣ってはいません。あと、ファンの動作モードも状況に応じて使い分けていただけるようになっています。

中西:音に続いて、B.I.S.(ボディ内手ブレ補正)への配慮について教えてください。

堀江:下手にファンを回すと振動するので、先程の音の話にも絡みますが、なるべく回さないようにした上で、制振構造を採用しました。加えてB.I.S.には、手ブレを検知するジャイロセンサーが入っていますが、その搭載位置と固定方法も含めて、何回も何回も試作をしました。ファンがついていない従来のS1/S1Rで訴求しているところと同じ性能を実現しています。

イメージ図:B.I.S.

中西:最後に防塵防滴についてお願いします。これって冷静に考えるとかなり気持ち悪い仕様ですよね。通気口があるのに防塵防滴って(笑)。

香山:これが一番苦労しました。従来のLUMIXには穴が開いていませんから(笑)。参考にしたのが当社のノートパソコンです。これらは、ファンがついていて、防水設計になっている。聞いてみると、防塵防滴とファンを両立させたければ、ファンがカメラ内部と完全に分離された状態で熱交換を行うような配慮が必要だと。

堀江:様々な検討の結果、カメラの中心とファン構造の間に放熱板金を設けて、ファン機構が完全にメカから独立するような構成にしています。また、ファンを動かすための電気的なケーブルの接続部もしっかり防水対応し、カメラの中心部分に一切、粉塵や水滴が侵入しない構成になっています。こういう構成だと、冷えるのが放熱板金とリアケースぐらいしかないので、いかに効率的に板金に熱を持ってくるかがポイントでした。従来のGHシリーズでやってきたファンレスの放熱設計の蓄積があったからこそ実現できたと思います。

イメージ図:防塵防滴

中西:ここまで苦労して実現した記録時間無制限ですが、三井さんから見ていかがでしょう。

三井:シネマカメラを担当していた人間からすると、当然の機能ですよね。

香山:そもそも、一番初めに三井君にS1Hの構想を説明した時に、「ちょっと待ってください、記録時間無制限ってなんですか?」と聞かれました。当然なんですよね。三井君が過去に作ったカメラは止まらないから(笑)。

三井:最初は意味が分からなかったのですが、話を聞いてなるほどなと思いました。これはチャレンジだなと思いましたね。うちの会社の品質基準だと“なんとか放熱はするものの、めっちゃ熱いカメラ”っていうのは許されないんです。厳格な基準をクリアして、さらに-10~40℃でも動作出来るんですから、すごいと思います、本当に。

5. “手ブレ補正”搭載の理由は?

中西:開発発表以降、噂サイトでこれは「手ブレ補正ついている」「ついていない」で盛り上がっていましたね。最終的に搭載した決め手を教えてください。

香山:コンセプトからくる部分が大きいと思います。フルサイズが持つシネマクオリティとミラーレスが持つ機動力、この二つを両立するためにはB.I.S.があるのはユーザブルですねとなりました。また、逆にプロ向けの手ブレ補正のある業務用カメラってほとんどないですよね。プロの業界において、シネマカメラで手ブレ補正がついている状態で撮影できるカメラは、このS1やS1Hぐらいではないでしょうか。

中西:S1Hってシネマカメラ側から見た時の見え方とLUMIX側から見た時の見え方が大きく異なるモデルだと思います。LUMIXの発想を捨てなかったからこそ、S1Hならではのオリジナリティに繋がりましたね。

トークシーン:中西

6. “チルトフリーアングル機構“に行き着いた理由は?

中西:次は、チルトフリーアングル機構にたどり着いた経緯を聞いて行きたいと思います。

香山:僕がGHシリーズをずっと担当してきて、GH3の頃から悩み続けてきたことがあるんです。それはHDMIケーブルを差しながら、フリーアングルをすること。実はずっと何年も内部で検討してきましたが、良いアイデアがなかったんです。狭スペース、小型カメラの筐体なので...。どこに端子を置けばいいんだろうと悩み続けたある日、設計から“端子ではなく、チルト軸にモニターを動かす”というアイデアが出ました。なるほど!そうきたか!と。見た瞬間に即採用しようと思いましたね。結構、予算かかるよと脅されましたが(笑)。何が心を動かしたかというと、フリーアングルとチルトという従来からあるものを組み合わせた「1+1」のはずなのに、新しい三番目の価値が加わっているわけです。かなり感動したのを覚えていますね。

イメージ図:チルトフリーアングル

堀江:当初は技術の内部でも、これはどうなんやろ?て疑問の声があったんですよ。でも、企画担当の香山さんに持っていったら、これはすごい!となって(笑)。ほんとにいけるかな?という疑問はありつつも、一旦やってみましょうかと...。

香山:発案者がビックリするぐらい僕が驚いたみたいで...(笑)。

堀江:最初、温度差がありましたね(笑)。

香山:このカメラって、USBからの給電・充電に対応していますが、HDMIと同じくケーブル干渉の問題が付きものなんです。これがまとめて解消できたことは大きかったです。

堀江:設計として一番懸念したのは、チルトで開いた時に、気持ち良くバリアングル操作が出来るのかどうかでした。当然、モニターがふらふら動いてしまわないようにガチガチに固定すれば、そこから気持ちよくバリアングル操作できる。ただ、そうなると気持ちよくチルト動作ができないし…。これらの両立を目標に仕様を追い込みました。結局、30度、60度チルトしたところに、カチッと止まる“クリック”を設けました。30度は液晶を開いたときも、アイカップに干渉せずに使いやすいんです。同梱ケーブルロックホルダーをつけても擦らない、絶妙な角度です。一方で、60度はチルトとして使っていただく時に気持ちよく使えるところです。上げ過ぎると上側がアイカップと干渉するので。

イメージ図:チルトフリーアングル

香山:あと、いわゆる光軸の上で、カメラをずらすことなく、自分の体の前で液晶を見ながら撮るような通常のローアングル撮影ができるのも、メリットの一つですね。

堀江:一般的なフリーアングルに比べてちょっと太いですが、強度を重視しています。プロユースのカメラとして安心感を提供できるような高い強度で設計しています。

7. 独特のボタンレイアウトの理由は?

中西:ほかにも外装的にこだわっていることは多いですよね。例えば、ステータスLCDやサブRECボタンなどのこだわりポイントを教えてください。

香山:デザイナーのこだわりが分かりやすいのは、カメラ天面のステータスLCDを横から見た状態ですね。実はほんの少し、撮影者から見やすいように斜めを向いている構成になっています。ウエストレベルの撮影時に見やすいような角度に設計したんですね。ちなみに、S1Hって、一見S1やS1Rとそんなに厚みが変わらないように見られがちなんですが、全然そんなことはないんです(笑)。実はデザイナーの意図としては、このように斜めにしたことを有効活用し、視覚的に小さく見える効果も狙っています。
また、センサー位置とストラップ、三角環の位置を合わせました。メジャーフックを引っかけやすくして、被写体との距離を測る時のアシストに使えてもらえたらと、強引にここを合わせ込みました。「S1HのHは、変態という意味ですか?」と時々言われますが、こういうこだわりを評価いただけたということなんでしょうね(笑)。それぐらいお客様の側に立って考えることができるメンバーが揃っていたので、心強かったです。

イメージ図:メジャーフック

中西:続いて、サブ動画RECボタンについてはいかがでしょうか。

香山:サブ動画RECボタンの配置の理由はいくつかあります。まず、ショルダーリグ撮影などで、右手で支えることになった時、左手ではRECボタンに届かない。だったら左から簡単にアクセスできるようにしましょうと。VARICAMやEVA1はRECボタンが複数あるのですが、お客様の声を聞いた時に、こういう配慮が重要なんだろうなと考えました。S1やS1Rでは、ドライブスイッチの切り替えになっていた箇所ですが、このカメラでは動画RECボタンにしようと決めました。また、YouTuberが自撮りする時に押しやすそうだという声もあります。そういう風に使ってもらうのも良いですね。特にこのボタンを使わない方はFn設定で切っていただいてもかまわないです。

イメージ図:サブ動画RECボタン

堀江:今回はビデオボスを搭載しているので三脚に載せた時にも便利ですね。

香山:S1/S1Rでは、筐体の厚さを優先し、別売のバッテリーグリップだけにしか入ってなかったんです。

中西:あと、今回初めてタリーランプを搭載しましたね。

香山:これもお客様の声を聞いて、取り入れました。

堀江:場所も適当に決めたわけではありません。お客様からいただいていた要望は、“360度どこからでも見える位置”。これがなかなか難しい(笑)。デザイナーからの提案は、「カメラの頭につけてパトカー風に・・・」というのもあって、それだけはやめてくれと...(笑)。
一応可能な限り360度から見やすい位置を選びました。グリップ側からは隠れますが、反グリップ側からは見やすい位置に配置しています。

イメージ図:タリーランプ

中西:ほかに、三井さんから見て、そこまでこだわるの?って、驚いたポイントなどありますか?

三井:Fnボタン設定のGUI(グラフィックユーザーインターフェース)ですね。カメラボディのグラフィックになっていてカッコいいですね。いつかVARICAMとかでも取り入れたいなと思いました。

香山:Sシリーズからは1ボタン・1機能、わかりやすさにこだわったんです。その結果、Fnでカスタムしやすい仕様になっており、S1Hでもその考え方を踏襲しています。

中西:S1Hって、さまざまなご意見を元に、全員であれこれ考え尽くして、やっと商品化に辿り着いたという感じですよね。まだまだ言い足りないこともありますが、今回はこれにて締めさせていただきます。ありがとうございました。

Sシリーズ フルサイズミラーレス一眼カメラ商品ラインアップ

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