開発者インタビュー第4回「操作性・信頼性」

第4回 操作性・信頼性 第4回 操作性・信頼性

第1回:システム

第2回:S series Lens

第3回:絵作り・表現機能

第4回:操作性・信頼性

「究極」へのアプローチ。

先進の設計技術を駆使して、堅牢性、耐久性、放熱性を追求した。

-耐久性や耐衝撃性について、これまでのGHシリーズのカメラと違いはありますか。

安田:GHシリーズもすでに多くのプロに採用していただいている実績があります。しかし、今回はプロユースとしての資質をさらに高いレベルで実現すべく、過去の品質規格を白紙に戻して、あらためてSシリーズとしての品質規格を定めるところからスタートしました。

 

-具体的には、どのような工夫をしたのでしょう。

安田:私たちには非常に信頼性の高いコンピュータ・シミュレーション技術があります。これを駆使することによって、強度的に不安があるウイークポイントを発見・対策し、設計段階で対策を施しました。これを行っていなければ、仮に評価試験をクリアしていても、その弱点を見過ごすことになってしまいます。そうならないよう、細心の注意を払って堅牢性、動作耐久性を高めています。

安田 幸司(メカ設定担当)

安田 幸司(メカ設定担当)

-評価試験そのものは従来と同じ基準で行なったのですか。

安田:品質規格をゼロから設定する、という話をしましたが、評価試験はそれ以上に過酷なものでした。例えば落下試験だけを見ても、レンズ装着状態で規定の高さからあらゆる角度で、不具合が発生するまで繰り返し落とし続けるのです。設計上の基準をクリアするのは当然として、さらに弱点を見つけ出し、可能な限り限界性能を高めるという姿勢で開発に取り組んでいます。

 

-最も苦労したポイントを教えてください。

安田:いろいろありますが、やはり堅牢性、耐久性と更に放熱も両立させることでしょうか。GHシリーズでノウハウは蓄積していましたが、フルサイズで4K/60p動画記録を実現するのは高いハードルでした。設計当初のシミュレーションでは、数分とたたずカメラ内が規定温度を超えてしまうという結果。そこで、堅牢性、耐久性のレベルアップと同時に放熱性を高めるために、内部に放熱フレームを配置したり、回路の配置や材質の選定など…地道な作業を繰り返し続け全てを両立させながら実用的なレベルの連続記録時間も確保しています。

MFTS先駆者として挑戦してきた我々だから、このサイズで理想のフルサイズ機を創った。

-いまから約10年前の2008年にミラーレス1号機を世に送り出したパナソニックはこれまで機動力として小型・軽量化を追求してきました。なぜいま時代に逆行するようにフルサイズでこのサイズ・重量なのですか?

高橋:ミラーレスはミラーが無くなることで、バックフォーカスの短いレンズが搭載可能になりレンズ設計の自由度が増すほか、構造上不可能だった動画撮影にも対応可能になりました。マイクロフォーサーズシステムは被写界深度の深さに加え、物理的サイズが小さく軽いためフルサイズよりも効きの良い手振れ補正により被写体を選ばない万能性、望遠域の小型軽量化を実現してきました。
その一方で、私たちは今後もこの業界でカメラメーカー「LUMIX」として生き残っていくためには何が必要なのかを2011年頃から検討してきました。その答えがフルサイズ参入です。S1R,S1は一日に何千枚撮影するための道具としてスペックではなく数値には表れない操作性や操作感を重視し「ゼロからカメラを創る」を目指しました。重心、ボタン配置、グリップ、メニュー構成などを徹底的に拘った結果が、このサイズと重量です。

高橋 征契(Sシリーズプロダクトリーダー)

高橋 征契(Sシリーズプロダクトリーダー)

-特に拘ったポイントは?

高橋:ファインダーです。私たちは、電子ビューファインダーでも、瞳の解像力に迫れば同様の「見え」に近づけると考えました。その結果が、約576万ドットの有機ELパネルの採用につながっています。

 

-とても自然な視野で、被写体に集中できそうです。

高橋:パネルの解像力だけでなく、ファインダー光学系にも非常にこだわった成果です。カバーガラスもレンズとして活用する合理的な5群5枚構成。自然な明るさで周辺まで歪みやコントラストの低下がなく、いわゆる目ブレにも強いファインダーとなっています。多くのカメラマンからファインダーがリアルに自分の目の代わりとなり1日中覗いていても疲れないとの声を頂いています。

 

-実際に覗いてみて、電子ビューファインダーにありがちなタイムラグが小さいことに驚きました。

高橋:フレームレートは120fpsで、表示タイムラグは約0.005秒です。我々は、10年以上にわたるマイクロフォーサーズ開発の歴史を通じて、ファインダーの性能向上にも大きな力を注いできました。S1R、S1の『リアルビューファインダー』はその集大成。ポートレートなら「片目は裸眼、もう片目はファインダー」と両目を使って撮る方にも、ほぼ違和感なくお使いいただけるのではないでしょうか。

表現者の意思と指に最もなじむカメラを、具現化する。

-Sシリーズをデザインするにあたってこだわったポイントはどこですか?

北出:Sシリーズはプロ写真家が使用する道具であるということを想定し、妥協を排してデザイン開発しようと考えました。プロの道具に徹するためには、これまでカメラ開発に携わってきた私たちでも見落としているポイントや、先入観があるかも知れません。そこでデザインに取りかかる前に、プロの撮影現場に同行し、彼らがどのようにカメラを操作するのか、どのようなことを考えて撮影しているのか入念にリサーチを行いました。

 

-その結果、何か新しい知見は得られましたか。

北出:プロ写真家は私たちが思っている以上に、「撮影時は操作に煩わされることなく、被写体や作品作りに集中したい」という想いが強いことを感じました。そこで撮影のプロセスと操作を食い入るように観察し、撮影の動線を分析し、操作部材一つひとつにプライオリティを付けてから、カメラのデザインをスタートさせています。

北出 克宏(カメラプロダクトデザイン担当)

北出 克宏(カメラプロダクトデザイン担当)

-操作性について、具体的にどのような配慮をしましたか。

北出:まずポジションを決めたのは、撮影時に最も作画意図を表現するためのジョイスティックです。これをいちばん操作しやすい場所にレイアウトし、そこから操作の動線に沿って他のボタンを配置しています。また、開発の初期段階から企画や設計者とも話し合い、ひとつのボタンに1機能のみを割り当てることにしました。それによって、誤操作を極限までなくし、撮影に集中できるよう配慮しています。

 

-持ち比べてみると、ほんの数ミリ位置がずれただけで、ボタンの操作感は大きく変わるものなのですね。

北出:カメラは撮影時に使う操作部材がグリップ側に集中するものです。しかし、ここはバッテリーなど大きなパーツを搭載する都合上、理想的な位置に操作部材を配置するのが難しいところでもあります。その点、今回は外装設計側でもコンマ1mmまでこだわって内部構造を工夫してくれ、デザインの狙い通りに操作部材を配置することができました。これは開発者が皆、プロに認められるものを作りたいという強い想いと決意があって、はじめて実現できたデザインです。ぜひカメラを手に取り、その使いやすさを確かめていただきたいと思います。

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